DX 導入事例

2024.03.08

配車の自動化とクラウド管理で業務削減。事業拡大まで叶えたヒサノのDX。

わずかな傷やほこりが致命的なダメージとなる、精密機器の輸送に定評のあるヒサノは、熊本県と福岡県に拠点を置き、機器の輸送から保管、設置までを行う一貫物流サービスを提供する運送会社だ。2021年11月には、DX化が進んでいると国が認めた企業として、「DX認定事業者」に選出されている。そんな同社も、改革当初は情報関連部署もなければデジタル人材もいない、いわゆるアナログ企業だった。一体どのような経緯でITを導入し、DX化を進めたのか、その道のりを代表取締役専務の久保尚子氏に伺った。
久保 誠氏

株式会社ヒサノ
代表取締役社長 久保 誠氏(左)
代表取締役専務
久保 尚子氏(右)


DXのポイント

  • 案件ごとの配車やシフトを「横便箋システム」により自動化
  • 倉庫にある商品1品ごとの出入庫を、「横便箋システム」と連動させてデータ管理
  • データはすべてクラウド上で管理し、即時共有

担当者依存から脱却させ、事業を安定化させた社内システム

先端半導体製造装置を輸送できることから、九州の運送業において確固たる地位を築いているヒサノは、案件ごとの車両と人員の割り当てを、独自のクラウドサービス「横便箋システム」を用いて行う。「横便箋」とは以前使用していた紙の配車表のことで、案件の作業内容や必要人数、時間帯などを入力すれば、自動で配車を実施。その配車情報はクラウドを通して担当者の各端末からいつでも確認できるというすぐれもの。
開発のきっかけは2016年に起こった熊本地震だった。
「地震による直接的な被害はありませんでしたが、翌年復興需要による依頼が急増したんです。当時の配車業務は、1人の配車担当が案件内容から車両と担当者を割り当て、その情報を紙媒体で管理していました。そのため、案件の増加に伴い配車担当に負担が集中し、それに起因した問題も発生。結果、会社は増収減益となり、改善が急務でした」と久保氏は当時を振り返る。
このシステムを開発したことで、現在は事務員が案件情報を入力し、導き出された配車情報を担当者は確認・微調整するだけ。以前と比較して配車担当の負担は軽減された。


停滞期打開のカギはプロとの出会い

横便箋システムの開発をはじめとした、同社のDXへの歩みは、決して楽なものではなかった。まずは従業員へのヒアリングからスタート。いくつか課題が見えてきても、その具体的な解決方法が見つからない。めぼしい成果が得られず2年が経過したとき、転機となったのが地元銀行主催のITセミナーへの参加だった。
「そこで登壇されていたITコーディネーターの方から、『がたがた道を均さないと車は走らない』という言葉を聞き、重要なステップが抜け落ちていることに気が付きました。これまでは、“取引先との関わりを含めたプロセスの改善”を行おうとしていたのですが、私たちの場合はその前の、“会社全体の業務プロセスの改善”を飛ばしていたんです」


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セミナー参加後はすぐに大きな効果を求めることをやめ、社内の業務プロセスに目を向けた。まずはITコーディネーターのアドバイスをもとに、目指すべき姿を明確にし、それを実現するためには何が必要か、社内関係者で欲しいシステムやサービスをすり合わせた。
「意見がまとまると、自作サーバーを使ってさっそくそれを形にし、自社で取り入れてみたんです。しかし、まさかのウイルス感染。やはり専門家の意見は欠かせないと感じ、別のITコーディネーターの方にも意見を仰ぎ、常に最新バージョンが使用できるOffice365を導入し、システム開発はITベンダーにも相談しました」

2021年に導入した横便箋システムの開発には、経済産業省のものづくり補助金をうまく活用した。導入後も同システムは随時アップデートをしているという。


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ハイテク倉庫の建築とデジタル人材の登用

ヒサノは横便箋システムを導入後、これと連動した管理システムを備える、営業倉庫の建築に乗り出した。
同社が請け負う貨物は、精密機器や楽器など一品一葉のため、ロット数で管理をする一般的なシステムの導入は不可能だった。そこで、カスタマイズ性の高い外部システムを購入し、在庫登録方法などを業務形態に合わせて調整。入庫する貨物の基本情報は自動入力されるよう、横便箋システムとも連動させ、ウェアラブル端末を用いて保管場所の登録や出入庫情報の入力まで簡略化した。当然クラウド機能対応で、全事務所の端末から状況が確認できる。
この運用方法により、これまでの既存業務を圧迫することなく、2022年倉庫業へ参入。保管から輸送、設置までの「一貫物流サービス」が提供可能になり、より広範囲にわたってお客様の要望に応えられる物流企業へと進化した。


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この時に必要となったのが、各専門家とより密にやり取りができるデジタル人材だった。同社のIT担当として抜擢された長澤氏は、2021年以降の同社の動きを次のように語る。
「私が当時任された主な業務は、外部のIT関係者との窓口と横便箋システムの改良、社内のセキュリティ管理でした。横便箋システムの改良については、現場の課題をヒアリングし、集まった課題に優先順位をつけます。その後は、年間予算などを考慮しながら改修項目の取捨選択を行い、取り組めそうなものから適時アップデート。その際、使い勝手に違和感を極力与えないように(ベンダーさんに)実装していただいているので、社内で大きな混乱が起こることはありません」

ヒサノのDXは「ITとなりゆきと人の縁」

これまでにDX化の苦労と成果を、身をもって体感してきたヒサノ。DXを推進するうえで、秘訣のようなものはあるのだろうか。
「数年前の私たちのように、ITすら導入していない企業が、自社の力だけでDXを行うにはかなりの困難が伴います。今振り返ると、失敗を少なくするためにも、分野ごとに専門家を頼り、教科書通りに進めることが一番の近道だったと思います。今では金融機関や物流コンサルなど、さまざまな外部機関とも連携し、悩みは都度専門家に相談できる組織体制を構築。ヒサノのDXは『ITとなりゆきと人の縁』と考えるほどに、周りの縁が大事だったと実感しています。人の縁はアンテナを張り、求め続けることで自然と恵まれていくのではないでしょうか」

労働人口の減少が進む中で、従業員が時代に合った働き方をするためには、DXが不可欠だと考えているヒサノ。同社はこれからも外部機関を交えたひとつのチームとして、DXを進めていくだろう。


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久保氏からのアドバイス

企業課題のなかには、話し合いややり方を少し変えるだけで解決できるものも数多く存在します。しかし、それではいたちごっことなってしまう問題の解決には、ITを導入するべきでしょう。まずは自社の強みと弱みを理解し、強みを活かせる方法で課題解決を図りましょう。弱みの部分は専門家を頼るのがおすすめです。


  • 株式会社ヒサノ 外観
  • 【企業プロフィール】
    株式会社ヒサノ
    本社: 〒861-4106 熊本県熊本市南区南高江 2-1-15
    代表者:代表取締役社長 久保 誠
    設立:1935年4月
    TEL:096-357-3161
    FAX:096-357-5893
    資本金:1,000万円
    従業員数:68名(役員を除く)
    営業時間:9:00~17:00
    定休日:日曜、祝日
    事業内容:半導体製造装置輸送、理化学・医療機器・金融システム機器輸送、病院・店舗・事務所移転、倉庫業
    URL:https://www.kk-hisano.co.jp/