2024.03.08
「人は考える葦である」ルーティンワークは機械へ。製造工程の全自動化を進めるHILLTOP
HILLTOP株式会社
山本 勇輝氏
DXのポイント
- ◆職人の経験と勘に頼っていた加工技術をデータ化
- ◆過去のデータをもとに、24時間無人稼働する工場で自動加工
- ◆AIを用いた自動加工プログラム作成システム“ COMlogiQ”をサービス開始
DXの足掛かりは情報の整理整頓から
HILLTOPの前身である山本精工株式会社は、冒頭でも触れたように、自動車関連部品の製造が約8割を占める、町工場だった。そんな同社を山本氏は大きく変える決意をする。きっかけは毎年求められるコストカットやルーティンワークに対し、「人生の大部分を費やすのだから、楽しくなければ仕事じゃない!」と感じたことだという。
山本氏が目指したのは、ルーティンワークなどの単純作業は機械に行わせ、人は人にしかできない知的活動をするというもの。1980年代、その足掛かりとして取り組んだのが、これまでに行った加工情報の整理整頓だ。リピートオーダーの際に、一度製作した物にもかかわらず、簡単に同じ加工ができないことや、職人が技術を共有したがらないことに、山本氏は強い疑念と問題意識を持っていた。まずは嫌がる職人をなかば強引に説得し、使用する道具や作業手順、その要領を細かく言語化してもらい、集めた情報をパターン化。「必要な時に必要なデータがすぐに取り出せないと意味がない」と、当時はまだ普及していなかったパソコンも導入し、徹底的に情報の整理を行った。改革を始めた当初は山本氏の行動に否定的だった社員も、一度苦労した加工のリピートオーダーに対し、過去のデータを用いて容易に対応できたという成功体験を味わうと、その態度は一変した。
この時に始めた職人技のデータ化は、社名が『HILLTOP株式会社』となった今でも、会社を支える基盤として絶えず実施しているという。
工場の24時間無人稼働を実現
一通り情報の整理整頓を終えて完成したのが、職人が長年の経験から身につけた、最適な刃物の回転数や切れ込みの入れ方など、加工時の最適値をまとめたデータベース「オペレーションリスト」だ。さらに山本氏は、過去に一度行った加工はルーティンワークとして機械に実行させるため、作業場に番地を振り分け、道具の配置に絶対的なルールを設けた。このルールに対し山本氏は次のように語る。
「道具の配置場所一つひとつにちゃんと名前と番地を付け、それを必ず守ることが重要です。必要なものが所定の場所にあるというだけですが、これだけで道具がどこにあるのか考える必要がなくなり、最低限必要な情報を入力すれば、機械が適切な道具を取りに行き加工を行うという、機械でも可能なルーティンワークになるんです」
今では加工時は、使いたい刃物と削りたい場所を選ぶだけ。さらには入力した条件で、問題なく加工が行えるかどうかも、「バーチャルシミュレーション」で事前に確認してくれる「HILLTOP System」が完成した。就業時間中にデータを入力しておけば、24時間無人稼働で夜間も作業を行う。しかし、HILLTOP Systemによるメリットはこれだけではない。
「通常、熟練した職人となり一定レベルの加工ができるまでに数年はかかるものを、HILLTOP Systemを活用すれば、たとえ新人であってもたった数ヶ月の研修で職人のようなクオリティの製品を作ることができます。新人の育成がスムーズに行えるため、皆が戦力として活躍でき、特定の社員への負担が分散されて、結果的に労働時間の削減にも繋がりました」
DX化の集大成「COMlogiQ」の登場
HILLTOP System確立後、Forbes JAPAN主催『スモールジャイアンツアワード 2019』グランプリをはじめとした数多くの賞を受賞し、日本を代表する企業となったHILLTOP。しかし、同社はそれでも進化の歩みを止めず、2022年には職人技をデータ化した「HILLTOP System」のデータベースに、部品加工における自動プログラミングシステムを連動させた独自AIシステム、「COMlogiQ」を開発した 。これは、加工製品の3Dデータをクラウド上にアップロードすることで、その加工プログラムを24時間いつでも自動生成できるというもの。プログラミング時間は以前の3分の1程度にまで短縮され、熟練技術者約30人分の作業に匹敵するというから驚きだ。
このシステムの登場により、製造工程の完全自動化が実現。今では社員はルーティンワークから脱却したことで、知的活動に専念できるようになり、スキルとノウハウがさらに蓄積されるという好循環が生まれている。
「人材こそが会社の財産、人が育つと会社が育つ」と考え、労働環境もかつての油まみれの工場から、社員食堂やテラス、マッサージ室を備える綺麗なオフィスへと一新。社員がいきいきと働く現在のHILLTOPには、就職希望者が後を絶たないという。これまでの一連の改革を振り返り、山本氏は改めてこう語る。
「最初は周囲からも批判や反対の声を受けながら進めた改革ですが、現在はルーティンワークから社員たちを解放し、知的活動ができる環境を生み出すまでに実を結びました。今振り返ってもDX化やIT化成功のカギは、日々の積み重ねだと感じています。弊社でいえば、どれだけデータの整理整頓が徹底できるか、最初に決めたルールを守り続けられるかといったことです。
これらは当然これからも続けなければいけませんが、目下の課題はCOMlogiQの改善です。2022年にサービス展開させていただき、たくさんの企業様にご好評いただいています。これからも今までのようにデータの整理整頓を行い、より一層精度の高い完全自動化を目指していきたいと思います」
山本氏からのアドバイス
ある日突然イノベーションが起こり、DX化が進むということはありません。企業のビジネスモデルを変革するDXも、始まりは各部門や一部工程のIT化です。小さなことでもいいので、まずは現状抱えている問題点を明確にし、それを解決するためにはどんな情報が必要かを洗い出しましょう。情報の整理整頓を行うことが、DXの第一歩となるはずです。
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【企業プロフィール】
HILLTOP株式会社
本社: 〒611-0033 京都府宇治市大久保町成手1-30
代表者:代表取締役 山本 勇輝
設立:1980年9月
TEL:0774-41-2933
FAX:0774-41-2926
資本金:3,600万円
社員数:145名
営業時間:8:15~17:00
定休日:土・日・祝
事業内容:部品加工事業、装置開発事業、ソフトウェア開発事業
URL:https://hilltop21.co.jp/