DX 導入事例

2023.2.28

膨大なFAXの処理から
社員を解放
アナログな食品業界で
奮闘する(株)マツヤ

日本が高度成長への礎を築きつつあった1957年に珍味を扱う卸問屋として大阪浪速区で創業。現在、洋食レストランやホテルなどに向けて専門食材の輸入・販売を手がける株式会社マツヤだ。扱う食材は高級料理に欠かせないキャビア、トリュフ、フォアグラなどの三大珍味から乳製品、製菓材料、調味料まで幅広く、日本の外食産業を縁の下で支えている。事業の拡大とともに立ちはだかる「効率化」という壁をITの導入で乗り越えてきた同社。その道のりと今後の展望を常務取締役の大谷氏、システム管理部の小嶋氏に伺った。


大谷 浩平氏

株式会社マツヤ
常務取締役 大谷 浩平氏

小嶋 康之氏

株式会社マツヤ
システム管理部 小嶋 康之氏


DXのポイント

  • 受発注システムの導入により労働時間が削減
  • 受発注のIT化により納品ミスが減少
  • RPAの導入により入力作業を自動化
  • 仕入れ業務における発注書の自動FAX化

FAX受注が生み出す非効率

飲食店に食材を納める食品卸の仕事は、時間との戦いだ。大半の店舗は閉店後の深夜に翌日の仕入れを発注するため、注文を受ける卸業者は翌朝に大量の注文を処理することになる。株式会社マツヤも例外ではなく、大量の注文FAXを整理することから1日がスタートしていた。
「長らく注文はFAXで受けるのが主流でしたので、出勤すると数百枚のFAXを確認し、注文内容を打ち込む作業が待っていました。FAXなので字が読めなかったり、『いつもの○○』のように担当者でないと分からない書き方だったりと、確認に膨大な手間がかかります。その為、始業時間より早く出勤し作業しないといけない状況でした。

さらに、このようなアナログの受注処理には打ち間違いや入力漏れなど、ミスが付き物だ。マツヤでは受注入力した情報を基にピッキングリストを出力し、それを見ながら各取引先の営業担当者が倉庫から商品をピックアップ。それらを取引先へ届けるところまで営業が行っている。
「商品の間違いや不足があると、再配送する必要が出てくるので、さらに時間を取られてしまいます。それが取引先にご迷惑を掛け、冷凍食材の場合は品質にも影響が出てしまい、信用問題と長時間労働の両面で長らく悩みの種でした」


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基幹システムとの連携による効率化

転機が訪れたのは2019年。当時、食品業界向けのクラウド発注サービスを利用する飲食店が増えてきたため、社内の基幹システムとの連携を図ったのだ。
「ちょうど基幹システムの更新のタイミングで、当時増えていたクラウド発注サービスの取引データを自動で基幹システムに取り込めるようにしました。それまでは受注データをプリントアウトして、それを手作業で基幹システムに入力していたため、その手間が減っただけでもかなり楽になりました。ここから、社内のIT化が一気に動き出したと思います」


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オンライン発注への長い道のり

次にマツヤが取組んだのは、まだFAX注文を続けている飲食店へ、このクラウド発注サービスに切り替えてもらうことだった。そこで同社は、同じサービスの別プランで、飲食店が無料で利用できるタイプを導入。顧客である飲食店に、このサービスの利用を問いかけて回った。
「これを利用してもらえれば、お客様はオンライン上のフォームに沿って注文するため、文字の読み間違いによるミスはなくなります。また、受注データは自動で基幹システムに取り込まれるため、打ち込み時のミスや入力漏れの心配もありません。何よりFAXの注文内容を手作業で打ち込む手間が削減されるので、少しでも多くのお客様に導入してもらおうと声をかけて回りました」

この取組にあたって、まずはシステム管理部の小嶋氏が各拠点を回り、導入後のフローを各営業担当にレクチャー。準備の整った拠点から順次進めることで、無理なく全拠点に広げることができた。営業担当の中には、やはり「従来のフローを変えたくない」という声もあったが、基幹システムとの連携でその利便性を体感していただけに、抵抗よりはさらに便利になることへの期待感の方が大きかったという。

同社が抱える取引先は、1拠点あたり1,000店舗を超える。ホテルや既に先述のクラウド発注システムを導入している取引先を除いても、膨大な数だ。その一店一店にサービスの利用を促し、IDとパスワードの発行や使い方のレクチャーを行ってきたが、その道のりは長い。
「最初、ブラウザ版しかなかった頃は、お客様が毎回IDとパスワードでログインする必要があったため、利用していただけないお店が少なくありませんでした。しかし、後にアプリ版が出たことで利用が増えました」

FAXからクラウド発注サービスへの切り替えの説得は現在も続いている。しかし、中には「これまでFAXするためにコンビニへ行っていたが、スマホで注文できるようになったのはありがたい」といううれしい声もあったという。


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アナログな食品業界のIT化に向けて

マツヤがさらなる効率化に向けて取り組んでいるのが、RPAによる作業の自動化だ。取引先の中には、他のシステム会社が提供する発注システムを利用している所もあり、そこからの受注データについては人の手でプリントして、基幹システムに手入力する、という作業が残っていた。それらを少しずつRPAで自動化しているという。
「お客様が利用されている発注システムのフォーマットは自動取込まではできていないのですが、100社ほどの取引先毎にログインしプリントするという途中までの単純な繰り返し作業だけでもRPAで自動化できます。お客様によって利用されるクラウドサービスもさまざまなので、少しずつ自動化できるものを広げていきたいと試行錯誤しています」


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マツヤは卸業者のため、各食材メーカーからの仕入れも重要な業務だ。こちらもFAXでの発注が主流で、50社ほどの仕入れ先へ順次FAXを送信する作業が必要だった。この作業にもかつては1時間ほど費やしていたという。
「各仕入先への発注書を作って、印刷して、それをFAXにセットして…と単純な作業ですが、数が多いためかなりの労力でした。さらにFAXの場合、受信が重なると不達になるなどトラブルも少なくありません。そこで、現在はメールで注文書を送ると自動でFAXを送信するサービスを活用しています。ランニングコストはかかりますが、削減できる時間と紙代を考えるとメリットの方が大きいですね」

まだまだアナログな文化が根強い食品業界だけに、ITサービスをうまく活用することで効率化できる余地は多い。その未来について次のように語ってくれた。
「人がしなくてもいい仕事はIT化を進めていく、という考え方がもっと広がれば、より魅力的な業界になると思います。そのために大切なのは『5分~10分でも時間はもったいないので、より価値の高い仕事に従業員の時間を充てたい』という感覚を経営層が持つことではないでしょうか。
弊社の場合は一連のIT化で累計3,000時間ほどの業務時間を削減できました。『残業時間を減らして従業員のプライベートな時間も充実させたい』というのが社長のかねてからの願いでもあるので、その実現に向けて今後もトライ&エラーを重ねていきたいですね」


DX導入前 DX導入後


大谷氏・小嶋氏からのアドバイス

ITツールの導入やシステム構築には数百万円単位の投資が必要な場合もありますが、その金額だけを見て諦めるのではなく、長期的な視点で冷静に判断することが重要です。初期費用は高額に見えても、利用する年数を考慮すれば、許容範囲に収まる可能性もあります。また、導入によって削減できる工数や労働時間を詳しく計算することも重要です。残業代などの圧縮によって、十分な費用対効果が出せる可能性もあります。


  • 株式会社マツヤ 外観
  • 【企業プロフィール】
    株式会社マツヤ
    大阪市浪速区立葉2-2-23
    TEL: 06-6562-6131
    FAX: 06-6567-6014
    資本金:9,840万円
    従業員数:114名(2022年4月1日)
    代表取締役社長:大本 博敏
    事業内容:西洋料理食材の企画・開発・製造・販売
    URL:http://www.mw-matsuya.co.jp/