DX 導入事例

2021.09.03

地方の老舗食堂から、世界を狙うIT企業へ。
飲食・小売業界の変革に向けた「ゑびや」の挑戦。

伊勢神宮の参拝客でにぎわう「おはらい町」に店を構えて100余年。「ゑびや大食堂」は伊勢の新鮮な海の幸、山の幸で観光客の舌をうならせてきた老舗だ。その経営を担う小田島春樹氏は2012年の入社以来、店舗のIT化を推し進め、5年間で売上は5倍、利益率は10倍に。今や飲食・小売業界向けにDX導入支援を手がけるIT企業へと姿を変えた。まさにDXのお手本のような成功事例はどのように生まれ、他社が学ぶべきポイントは何か。立役者である小田島氏に話を聞いた。
小田島 春樹氏

有限会社ゑびや
代表取締役 小田島 春樹氏


DXのポイント

  • 売上、天気、周辺の宿泊者数などに基づく「来店予測AI」を開発
  • 画像解析システムを活用し、通行者・入店者の属性、感情などを分析
  • 開発したシステムを商品化し、その販売およびDX導入支援を事業化

家業から企業への変革をめざして

もともとIT企業に勤めていた小田島氏が「ゑびや」に入社したのは2012年。当時は手切りの食券で注文を取るなど、アナログな店舗運営だったという。
「経営に問題があるわけではなかったのですが、昔ながらの“家業”として続けている状態でした。その当時は良くても、ビジネス環境が大きく変化したときに、ついていけなくなるだろうな、と。家業から企業へと体質を変え、高収益化をめざす必要を感じました」

そう語る小田島氏が取り組んだのが、データに基づく無駄のない店舗運営だ。売上データ、気象、曜日、周辺の宿泊客数など、400項目近いデータの相関関係を分析し、翌日の来店客数をAIで予測するシステムを開発。また、AIカメラで店頭の通行客や店内客を解析し、入店率や、入店客の属性、店頭ディスプレイへの反応などをデータ化するシステムも導入した。一連のIT化により、これまで経験や勘に頼っていた業務がデータ化され、仕入れや人員配置の無駄をなくすことに成功。売上と利益率を大幅に改善しただけでなく、残業を削減しつつ休暇を増やすことにも成功している。


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2018年には株式会社EBILABを設立し、飲食・小売業に向けたクラウドサービスの開発・販売を手がけている。もともと自社の業務改善を目的に開発したシステムだが、地元の企業から「うちも使ってみたい」という声が多く寄せられたという。そこで、開発した様々なシステムをクラウド上に集約し、簡単なカスタマイズで汎用的に使えるサービスを構築。現在は飲食・小売業以外の幅広い企業や自治体にもマーケットを広げ、収益ベースでも完全にITソリューションが主軸事業になっているという。


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発注者側がITリテラシーを高める

ゑびやが取り組んだ一連のシステム開発は、もちろん自社だけの力で成し遂げたものではない。画像解析やAI開発などは外部の専門業者のサービスを活用しているが、その際のポイントを次のように語る。
「大半の企業はDXにあたって専門業者の協力が不可欠だと思いますが、発注者側にも専門知識が必要です。自社の業務にぴったりのシステムをゼロから開発しようとすると、希望する仕様と現実にできることとの乖離が大きいことに気づくと思います。従って、既存のサービスを自分たちで選定して組み合わせる、という考え方が重要で、私たちもシステム開発に関しては大部分を自力で構築しました。そのためには、どの部分を自分たちで作って、どの部分をどのように外注するかを理解していることが重要。だから発注者側もITリテラシーを高める必要があるのです」

小田島氏自身がIT企業出身というアドバンテージはあるものの、ゑびやではDX導入に合わせて着実にIT人材を育ててきた。日々の業務と並行してIT人材を育てる、というハードルをどのように乗り越えたのだろうか。
「大切なのは、通常業務の傍らで行うのではなく、学ぶこと自体を業務にしてしまうこと。例えば、2016年に店長として入社したスタッフは、その後5年間で約10,000時間を費やして専門知識を身に付け、今はCIOおよびデータベースエンジニアとして活躍しています。同様の形で、データ分析のスキルを身に付けた接客スタッフなど、複数のIT人材がいます。これを実現するには、業務の一環として時間を設け、学ぶための環境を整えるという経営者側の覚悟が求められます」


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店舗はマーケティングの実験場に

2012年以降、社内のIT化を推し進め、IT企業として大きな変貌を遂げた「ゑびや」。新型コロナウイルス感染症の不安が日本中を覆った2020年5月には、食堂に隣接する土産物店「ゑびや商店」での購入をオンラインで体験できる「WEB来店」を開始。2021年7月には「ゑびや大食堂」の名物「てごねずし」の調理を自動化するロボットを導入するなど、その後もテクノロジーを活用した業務改善に余念がない。今後「ゑびや」はどこへ向かうのか。
「これからの時代、店舗を拡大することや、モノをたくさん売るような戦略は足かせになると考えています。従って、店舗はデータを集めてマーケティングに役立てる実験の場として活用し、レビューを提供するようなビジネスを展開しようと考えています。モノを売るビジネスから、データを売るビジネスへの転換です。データビジネスはまだ歴史が浅いので、新しい可能性がたくさん眠っています。私たちの取り組みは、その可能性をどれだけ市場に浸透させられるかの挑戦でもあります」


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さらに小田島氏は、一連のDXの取り組みについて、その本質を次のように語る。
「もともと私も飲食業に執着があるわけではなく、日本のサービス業をどうすれば良くできるか、というテーマを追究していきたいのです。将来の人口減少に対して何をすべきか、何をどのような価格で販売すれば適正なのか、などをデータで検証しながら新しいビジネスの形を模索しているようなイメージです。DXの根本にあるのは組織文化の改革です。長い目で見れば、コロナのような環境変化は何度も起こりえます。そんなときに、自分たちの文化に周りを合わせようとするのではなく、自分たちが周囲に合わせて文化を変えるという意識が必要不可欠です。それをデジタル技術中心で行うのがDXの本質ではないでしょうか」


DX導入前 DX導入後


小田島氏からのアドバイス

まずは、自分が解決したい悩みの解決にデジタル技術を活用してみましょう。「業績を上げたい」だけでなく、「現状の業務を楽にしたい」「スムーズに事業承継したい」など、きっかけは何でもいいと思います。そして、これまで変えられなかった業務フローや、関係を切れなかった取引先が障壁になっているのであれば、思い切って壊してみましょう。


  • 有限会社ゑびや 外観
  • 【企業プロフィール】
    有限会社ゑびや
    本社: 〒516-0024 三重県伊勢市宇治今在家町13
    代表者:代表取締役 小田島 春樹
    設立:1994年1月
    資本金:500万円
    TEL:0596-63-5135
    営業時間:9:30~17:00
    定休日:無休
    事業内容:老舗店舗の運営・販売
    URL:https://www.ise-ebiya.com/

株式会社EBILAB
本社: 〒516-0024 三重県伊勢市宇治今在家町13
代表者:代表取締役 小田島 春樹
設立:2018年6月4日
資本金:6000万円
TEL: 0596-63-6364
FAX: 0596-63-5222
事業内容:飲食店向けクラウドサービスの開発・販売・サポート
URL:https://ebilab.jp/