DX 導入事例

2021.09.03

“プレス屋”からシステムベンダーへ
製造業のスマート化に挑むチトセ工業

ものづくりの町、東大阪で1962年に創業し、プレス加工とブレージング(炉中ろう付け)の二本柱で高度成長期の製造業を支えてきたチトセ工業。日本を代表するメーカーの下請けとして技術を磨き続け、数々の賞にも輝いている。その同社がDXにおいて一歩リードするきっかけとなったのが2014年に開発した「Logbee」だ。この成功が同社にさらなる勢いを生み、2019年にはスマートファクトリーのモデルともいえる新工場を竣工。次世代の製造業の姿を模索し続ける同社の狙いを、代表取締役の中西啓文氏に聞いた。
中西 啓文氏

チトセ工業株式会社
代表取締役 中西 啓文氏


DXのポイント

  • 自社製品としてIoT機器を開発、販売し、新たな収益源を創出
  • 開発した自社製品を既存事業にも活用し、稼働状況を可視化
  • 稼働状況をデータ管理できるスマート工場を新設し、そのシステムを外販

大学からの依頼で生まれた自社製品

大手メーカーからの受託加工を長く手がけてきたチトセ工業は、2014年に自社製品としてデータロガー「Logbee」を発売。計測した温度、湿度、照度などの環境データを無線送信できるIoTセンサで、防水性能も備えたすぐれものだ。開発のきっかけは、ある大学からの依頼だったという。
「2010年頃、センサ技術に詳しい人材との出会いを機に、自社製品の開発に向けた社内ベンチャーを立ち上げました。景気の変動に左右されない事業体質を築くためにも、自分たちで市場を開拓する必要を感じていたためです。2年ほど試行錯誤していたところに、ある大学から『ビニルハウス内のトマトの飼育環境を可視化したい』と相談があり、温度・湿度・照度のログを取れるガジェットを開発したのです」

完成したガジェットの品質を見て商品化の可能性を感じ、「Logbee」の名で販売を開始。その後、CO2濃度を計測できるモデルや、送信距離を10kmまで伸ばした「Logbee Haruca」をリリースするなど、着実に成長軌道を描いてきた。
「農業もファクトリー化が進んでいたため、Logbeeにはニーズがあると感じました。しかし、いざ販売してみると農業向けには売れず、 代わりに建設業界から多くの引き合いをいただきました。コンクリート養生を行う際の湿度管理にLogbeeが役立つことがわかったのです。その他にも、トレーサビリティが厳格化された食品加工や、熱中症対策が必要な大型工場などでご利用いただいています」


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新事業と既存事業のシナジー効果

チトセ工業に新たな収益源をもたらした「Logbee」は、既存事業の製造ラインでも活用されている。金属を扱う現場では、温湿度の管理が品質を左右するからだ。
「プレス加工においては材料の湿度管理が重要で、倉庫での保管に役立てています。ブレージングにおいては加熱炉の近くでの作業が必要ですので、熱中症指数の測定に使っています。照度も記録できますので、製品の外観検査を行う検査室の照度を測定し、トレーサビリティの確保につなげています」


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Logbeeの活用は、取引先に対しても様々な形でメリットを生んでいる。
「弊社では金属の中でも銅を扱うことが多いのですが、銅は湿度が高いとすぐに変色してしまいます。Logbeeで保管環境を可視化しているおかげで、常に最良の環境を保ち、高品質の製品を納品することができています。また、会議室などにはCO2濃度を測れるセンサを設置し、換気状況を可視化しています。世間がコロナで不安になるなかで、来客される方の安心につながっています」


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次世代型製造業のモデルケースに

2019年、チトセ工業は創業の地である東大阪市から八尾市に本社を移転し、新工場での操業をスタートさせた。新工場はオープンファクトリー化し、企業からの見学を受け付けているが、その狙いを次のように語る。
「Logbeeの仕組みをさらに有効活用しようと、新工場ではプレス加工の稼働状況を可視化し、生産性の向上に役立てるシステムを導入しました。私たちは『ショットセンサ』と呼んでいますが、プレスの1ショットごとにログを取り、ディスプレイに表示させる仕組みです。今後、この設備そのものを外販していくため、八尾の工場はショールームとしての役割も担っているのです」


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新工場の建設にあたっては、従来の町工場のイメージを覆すデザインにこだわったという中西氏。その手応えもしっかりと感じているようだ。
「見学に来られる方は『とてもプレス工場には見えない』と驚かれます。何よりうれしかったのは、初めて新卒社員を採用できたことです。しかも4名も。人材採用で苦労する製造企業が多い中、ひとつの解決策を示すことができたかな、と思います」


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「可視化」がDXのキーポイント

Logbee開発からスマート工場建設まで、一連の取り組みから同社が得た気づきは「可視化」の重要性だ。
「DXで生産性を上げるポイントは、様々な状況を『見える』状態にすることだと感じています。状況が見えることによって、それを『改善しよう』というモチベーションが生まれますから。だからシステムを開発するときも『何を可視化したいのか』を現場からしっかりと吸い上げ、それを仕様書に詳しく落とし込む、というステップを踏んでいます。ソフトの開発などで専門業者に外注する際も、このようなステップを踏めば認識のズレを防げると思います」


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経営トップのイニシアチブによりデータ経営への道を切り拓いてきたチトセ工業。その裏には中西氏みずからの人脈形成および情報収集への努力がある。中小企業が集まる団体なども活用し、つながりを持った経営者から情報を仕入れては新たな戦略づくりに生かしているのだ。
「私は『情報処理能力』と『人脈形成』が経営の肝だと思っています。今はインターネットでも多くの情報を得られますが、やはり人脈から得られる情報は大きいですね。特に弊社では新しい取り組みの際には行政の補助金を有効活用しており、そのような情報に対するアンテナも重要だと思います。そして、情報は集めるだけでなく、こちらから発信することも大切。Logbeeの発売によって情報を発信する機会も増えましたが、発信すればまた多くの情報が返ってきますから」

「Logbee発売の1年後くらいに『IoT』が叫ばれるようになりましたが、ある取引先から『これこそIoTですね』と言っていただきました。今は『DX』が叫ばれていますが、これまでやってきたことが、まさにDXだと感じています。この分野では時代の半歩先を行くことができたと自負しているので、この経験を製造業のDX支援に生かしていきたいと考えています」


スマートファクトリーコンセプト


中西氏からのアドバイス

社内を見渡せば、これまで社内でIT化してきた作業はいくつかあると思います。それらの“小さなDX”を一度整理し、どのように発展させていくか、というストーリーを作ることが大切だと思います。そして「リーンスタート」という言葉があるように、最初から大きく改革するのは大変なので、まずは小さな取り組みから始めることをお勧めします。


  • 有限会社ゑびや 外観
  • 【企業プロフィール】
    チトセ工業株式会社
    代表者:代表取締役 中西 啓文
    創業:1962年6月
    資本金:3,000万円
    営業品目:■金属プレス加工
    金型設計製作/金属プレス加工/板金加工
    ■無酸化炉中ろう付け加工
    各種ろう付け加工/はんだ付け加工/光輝焼鈍
    ■無線電子機器設計製造
    防水無線データロガー“Logbee”(温度・湿度・照度・CO2)
    所在地:大阪府八尾市西高安町5丁目3番
    TEL:072-925-3900