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【2024/1/16(火)開催】
神戸市中小企業DXセミナー レポート

神戸市中小企業DXセミナー レポート

製造業のDX成功事例として、京都府宇治市にあるHILLTOP株式会社山本昌作相談役をお招きして、実例を交えながら講演を行いました。以下、当日のご講演の内容を文字起こしの上、レポートいたします。

DXの始まりは情報の整理整頓から

HILLTOP株式会社は、京都府宇治市で製造業を営んでいます。特徴としまして、受注の85%が1個や2個の小ロット生産という、おかしな会社です。量産をする方が楽なのですが、この受注を可能にしているのが、さまざまなデータの整理です。

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例えば、とある大学から依頼されたフォーミュラーカーの部品を担当したのは、入社4年目のプログラマーです。加工には機械を使うのですが、そのためにプログラムを都度都度作成します。しかしそのステップは、どの刃物を使うのか、どの部分を削るのか、の2ステップだけです。さらにいえば、刃物の選び方や削る際の回転数、切り込みの深さなどの経験が必要な部分は、熟練の職人さんの経験をデータベース化して共有をしているのです。そのため、どのような加工が適切なのかを瞬時に判別することができるのです。これまでの日本は「職人」という言葉が邪魔をして、技術や知識の共有をしてきませんでした。これを早く直さなければ、日本の製造業はまずいことになると私は考えます。
では「小ロットの生産で利益は出るのか」と思われる方もいるかと思いますが、弊社の利益率は業界平均を大きく超えます。それはなぜか。リピートオーダーを大切にしているからです。さらにリピートオーダーの仕事を無人で行うことで、効率化を図っています。皆さんも経験があるかと思いますが、定期的に同じ注文をされるクライアントがいらっしゃると思います。その際に情報の整理整頓をすることで、次以降の生産がとても楽になりますよね。それを我々はしっかりとデータベース化して無人化させることができたのです。そして無人化によって夜間作業も可能とし、24時間稼働できる工場に変貌することができました。

HILLTOP生産システムのご説明

HILLTOPのモノづくりを支える生産システムは、人の業務と機械の業務の大きく2つに分けることができます。人の業務を支えているのが「オペレーションリスト」と「バーチャルシミュレーション」です。

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「オペレーションリスト」は、職人さんが長年の経験で身に付けていたような「刃物の回転数」「一度の切り込みで削る量」など刃物で行う、様々な作業の最適数値をまとめたデータベースのことを指します。
「バーチャルシミュレーション」は、その名の通り、加工機がどのように動くのかをシミュレーションさせることです。危険な干渉がある場合はエラーが表示されるため、安全なシミュレーションができるまで、何度でも試すことができるのです。
次に機械の業務についてです。HILLTOPでは完璧なシミュレーションを行っているので、人間が機械の前に待機して安全確認をする必要がありません。そのため、24時間無人で加工機は稼働し続けているのです。これまで職人技と呼ばれる技を共有してデータ化し続けることで、さらなる効率化を図ることができたのです。要するに、過去に製作したものはすでにルーティン化されているので、考える必要がないのです。もし担当者が退職したとしても、誰でも作れる。こういった部分も含めて、自分たちの加工環境などの情報を整理整頓して置くことが大事なんです。また同じような商品でも、色や形などクライアントごとのローカルルールがあると思います。これも情報整理しておくことで、迷うことがありません。これがDX化なのだと思います。

製造業の課題をクリアするクラウドサービス「COMlogiQ」

近年、HILLTOP生産システムは、AIと組み合わせることでさらなる進化を遂げました。それが、職人技とAIの融合を加速させるクラウドエンジニアリングサービス「COMlogiQ」です。近年の機械加工の生産において、ロボット化が進んでいますが、CAD/CAMを用いた生産工程においてはまだまだ人の手を要する作業が多く残っており、製造業界の課題になっています。

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「COMlogiQ」は、長年の切削加工現場で培われた知識と技をデータベース化。その膨大な情報をAIに学習させており、工程設計やプログラム作成をクラウド上で自動処理することを可能にし、加工工程の完全な自動化を実現させています。
ワークフローもシンプル。ユーザーが製品の3Dデータをアップロードすれば、AIが工程設計やプログラムを作成します。つまり、機械と「COMlogiQ」さえあれば、誰でもモノづくりが可能になっています。さらに世界トップクラスの形状解析システムを搭載しているため、加工可否の判断や形状について、フィードバックデータを蓄積。さらなる効率化と品質向上を図ってくれると考えています。
昨今のDX化では、ルーティンワークから解放され、新しく価値ある仕事をすることが目的とされていることが多いです。しかし製造の現場ではまだまだルーティンワークやアナログ業務が作業のほとんどを占めています。この問題を解決するために、熟練者の技術を共有し、AI化することで解消していこうと考えています。
技術のハンデといった製造業界の課題を解決できるクラウドサービス「COMlogiQ」は、HILLTOPの事業としても成長してくれました。

最初はしがない町工場でしたが、常に情報を整理して技術をデータ化することで、クラウドサービスを提供できるまで成長してくれたことは、私の誇りでもあります。
私は、人を育てることを大切にしています。ルーティンワークをずっと行わせていても人は育ちません。常に新しいことを考える、そういったチャンスを与えることが、一番重要だと思います。やはり知識労働を行わせることが重要なのです。そして自発的に、能動的に仕事ができるような環境を作ることも大切です。そこで私はジョブローテーションをかけたりしています。ものすごくリスクがあることは重々承知の上ですが、社内の情報を満遍なくいきわたらせて、理解させるためにジョブローテーションが必要だと考えました。営業だけが持っている情報、製造だけが持っている情報、それを双方が理解することで、どこで何が必要なのかを、社員全員が瞬時に判断できるようになるのです。

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だからこそ業務のDX化を進めて、ルーティンワークからの解放を目指すことが人材育成に繋がるのだと考えています。そのための情報の整理整頓なのです。愚直に今やっていることの情報を整理整頓する。ある日突然、イノベーションが起こって、「このソフトがあれば全部できる」なんてことは起こりません。ちゃんと自分たちが行っていることを情報化して、整理して、誰でも共有できるようにすること。そこをないがしろにしていては、DX化はできません。それはコンピューターを使うだけではなく、紙に書き出すだけでもいいと思います。それがITの原点であり、私の原点だと思います。

以上、2024年1月16日に行われた「神戸市中小企業DXセミナー」についてレポートいたしました。
本Webサイトでは、ガイドラインにて業種別DX導入の取り組みやDX導入事例も紹介していますので、ぜひご活用ください。