2026.3
デジタル活用でリソースを生み
アナログの価値を高めて優位性を築く
株式会社エヌエスケーケー
代表取締役社長 玉田 宗彦 氏(中央)
執行役員 コミュニケーションサポート事業部 藤田 洋平 氏(左)
管理部 部長 今田 良子 氏(右)
端末の買取り制が導入され、携帯電話の本格的な普及への転機となった1994年、携帯ショップ運営に参入したNSKK。現在は神戸市内で複数のauショップを運営し、法人向けの通信サポートにも力を入れる。兵庫県下で初めてDX認定やDXセレクション優良事例企業に選ばれるなど、早くからDXを推進してきた同社の根底にある業務改善の哲学に迫った。
設立時から受け継がれる「環境整備」の思想
「弊社の業務の土台には『環境整備』の思想があり、DXはその延長線上にあると捉えています」と語るのは経営トップとしてNSKKを率いる玉田氏。DXから生まれた新規事業「サンクスカードアプリ」を軌道に乗せ、DX認定やDXセレクションにも早くから認定されてきた同社だが、DXそのものを主目的として何かに取り組んできたわけではない。その真意を理解するには、同社の掲げる「環境整備」の思想を紐解く必要がある。
「環境整備は、仕事のしやすい環境を『整えて』『備える』こと。『整える』とは無駄なタスクを捨てる『整理』と必要なものを正しく揃える『整頓』を意味し、これを追求すると自由に使える時間が増えていきます。これは、すなわち『効率化』です。一方の『備える』は業務拡大のための準備のことで、お客様のためにプラスアルファの手間をかけたり、新たな商品・サービスの開発にリソースを割いたりすることです。これは『非効率化』と言えます。この『効率化』と『非効率化』の仮説検証を繰り返すことでライバルと差別化し、成長し続ける組織を築くことが私たちの考える『環境整備』であり、日々の業務の基盤となっています」。
この思想は設立当初から経営の土台として組織に浸透し、成長の推進力となってきた。いずれも新卒で入社したという藤田氏と今田氏は「これまで、当たり前のように環境整備の考え方に基づいて業務に取り組んできた」と口を揃える。この環境整備の手段としてデジタルを活用したものが同社にとってのDXであり、デジタルツールを導入することがゴールではない。この確かな判断軸が、結果的にDXを成功に導いているといえるだろう。
デジタル人材育成の鍵は「強制しないこと」
NSKKにとって「環境整備の一部」という位置付けのDXだが、デジタル人材の育成には力を入れている。同社が策定した「デジタルトランスフォーメーション戦略」には「全社員がDX人財として活躍できる組織を作る」という中期目標が掲げられている。そのためのユニークな取り組みのひとつが「DXスクール」だ。
これは、ノーコード・ローコードツールの使い方を学ぶ社内研修で、座学に留まらず実践的なツール活用を組み込んだカリキュラムを提供する。参加するのは各部門の中心メンバーやデジタルへの関心が高い社員などで、スクールを通じてDXをリードする専任者の育成をめざす。そして、この専任者が知識や成功事例を各現場で拡散することで、組織全体のスキル向上を図っている。
ここで重要なのは「強制しないこと」だという。その意図を玉田氏は次のように語る。「社員の興味関心は一人ひとり違います。例えばデジタルよりも対人営業が好きな社員に強制的に学ばせても、結果としてモチベーションを下げてしまいます。最初は私も全員一律で習得させようと考えていましたが、今はDXに関心のある社員が成果を出せる仕組みを作ることで『学んだ方が得』という空気感を醸成するようにしています」。
AIの活用事例を社内で共有し横展開を図る
昨今のビジネス環境において「AI」が重要なテーマであることは疑う余地がない。NSKKにおいてもその意識は高く、先述のデジタルトランスフォーメーション戦略にも「AIを活用した価値創造」を明確に打ち出している。同社の業務におけるAIの活用法について、玉田氏はさまざまな例を挙げた。
「既に成果を上げている事例として、営業や接客のロールプレイングに生成AIを利用しています。商談の動画を分析させて改善点を提示してもらったり、簡単に買ってくれないお客様をAIに演じてもらってセールストークの練習をしたりして、実際に契約率が向上しています。他には、書類を上司に確認してもらう前にAIにレビューさせたり、部下の日報を読み込ませてモチベーションが低下している社員の察知につなげたり、他にも考えればどんどんアイデアが出てきます」。
AIリテラシーを高め、それを環境整備につなげる取り組みとして興味深いのが動画を使った活用事例発表だ。毎月、部署ごとにAIを業務に活用した事例を簡単な動画にまとめ、社内で共有している。優秀な事例にはインセンティブも用意する。AI活用の具体的なイメージを共有することで取り組みの心理的ハードルを下げるとともに、効果的な横展開につなげる狙いがある。
「攻めのDX」で新規事業を軌道に乗せる
「環境整備」というブレない軸があるからこそ、現場がさまざまなDXに挑戦できるのがNSKKの強みと言える。そこに、さらなる推進力をプラスしているのが新規事業へのチャレンジ精神だ。玉田氏が「私たちには失敗に対する免疫がある」と語るように、同社は新規事業の失敗経験が少なくない。それでも「挑戦しない人は力が付かないし、失敗の多い人の方が成長が早い」というポリシーを貫き、社員にも浸透させてきた。
この土壌から生まれた特筆すべき成功例が「サンクスカードアプリ」だ。同社では古くから社員どうしで感謝の気持ちを紙に書いて贈りあう「サンクスカード」という取り組みを行ってきたが、これをスマホで贈れるようデジタル化したアプリを開発。2018年に自社サービスとしてリリースした。2024年にはユーザー数が2万人を超え、デジタル改革を新規事業につなげる「攻めのDX」の好事例となった。
そして次なる新規事業として力を注ぐのがDXコンサルティング業で、AIをはじめとするデジタルツールの活用に関するセミナーや導入サポートを行う。また自社の取り組みを実際に目で見てノウハウを学んでもらう見学会を定期的に開催し、着実に参加者を増やしている。「まだまだ新規事業は作りたいですし、それらを任せられる経営者も育てたい」と玉田氏の姿勢はあくまで貪欲だ。
デジタルの時代だからこそ問われる人間力
「DX」と聞くとデジタル活用を通じた効率化の追求をイメージしがちだが、本当に大切なのはアナログの部分であることをNSKKは教えてくれる。技術がどれだけ進化しようと、会社を成長させるのは「人」なのだ。「今後ますますAIが発達して仕事の内容も質も変わると思います。その結果、最終的に『人間力』や『ホスピタリティ』といったアナログ要素がライバルとの差別化や顧客満足につながるのではないでしょうか」と玉田氏。
デジタルツールが浸透するほど、社員どうしが会話せずとも業務は進むようになる。しかし、だからこそ同社は社員間のコミュニケーションを重視し、相互理解を深める機会を大切にしているという。「結局デジタルツールを使うのは人間なので、人を育てることや人間関係を深めることの大切さ、さらにはその先にある従業員満足の重要性は今後も変わらないと考えています」。
(取材日:2025年12月16日)
アドバイス
「DX」という言葉に身構えたり、大げさに考える必要はありません。大切なのは、毎日少しずつでもいいので現状の業務環境を改善する習慣を身につけることです。その際にデジタル技術を活用すれば、それが自然とDXにつながっていくのです。DXが目的化してしまうと、現場は「負担が増える」と感じる可能性もあるため、あくまで「日々の業務改善の一部」という捉え方で現場に落とし込むことが重要です。
神戸市モデル/中小企業DX推進チェックシート
※神戸市モデル/中小企業DX推進チェックシートを基に、株式会社エヌエスケーケーの取組を整理いたしました。実際の取組内容をヒントに、DX推進ポイントを踏まえながら、自社のDX推進にお役立ていただければ幸いです。
| 株式会社エヌエスケーケー | ||
|---|---|---|
| 01 | ビジョン・ ビジネスモデルの策定 |
・既存ビジネスの変革と新たなビジネスモデルの創出により、企業価値向上・差別化をめざす |
| 02 | ビジョン達成のための 全体戦略の策定 |
・バックオフィス業務は効率性を重視し、業務の最適化を徹底する ・BPOやデジタイゼーションを推進し、無駄な作業を排除する ・フロントオフィス業務はアナログで仮説検証を繰り返し、新価値を提案し続ける |
| 03 戦略の 推進 |
①組織の視点 | ・社長直轄のDXプロジェクトチームを設置し、各部署にDX担当者を配置することで組織全体への浸透を図る |
| ②人材育成・確保の視点 |
・「DXスクール」を定期的に開催し、デジタルツールの活用スキルを学ぶとともに、参加した社員が他のメンバーに教えることで組織全体のリテラシーを高める ・成功事例の横展開を通じたスキルの平準化 ・ITパスポートの取得、活用促進 |
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| ③デジタル技術の活用の視点 |
・生成AIを活用した営業ロールプレイング ・テレアポリスト作成の自動化 ・社内資料作成、議事録作成などの自動化 ・お客様の声をAIで分析し提案内容を自動生成 |
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| ④サイバーセキュリティの視点 |
・境界型ネットワーク(VPN)を廃止し、ゼロトラストネットワークによる安全な環境を構築 (※ゼロトラストネットワーク 「何も信用することなく常に検証する」という考え方に基づくセキュリティモデルのこと) |
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| 04 | 成果指標の設定 |
以下の項目についてKPIを設定 ・DX新規事業の売上拡大 ・既存事業の売上拡大 ・残業時間の削減 |
| 05 | 管理体制の構築 | ・社長を筆頭に、情報セキュリティ責任者、情報責任者、技術責任者が連携してDXの各施策を統括 |
| 市内企業への好影響 |
・見学会を通じた社内事例およびノウハウの共有 ・DXコンサルティングを事業化し、デジタル活用をサポート |
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【企業プロフィール】
株式会社エヌエスケーケー
本社所在地:神戸市灘区深田町4-1-1
代表者:玉田 宗彦
創業:1991年
資本金:1000万円
従業員数:63名(PA含む)
事業内容:auショップの運営、ビジネスコミュニケーションツールのコンサルタント、電解無塩型次亜塩素酸水の販売
URL:https://nskk.ne.jp/