2026.1
デジタルが一番“苦手”な社員を仲間に!
DXで人材不足と戦う東洋ナッツ食品
東洋ナッツ食品株式会社
取締役 技術本部長
石原 数也 氏(左)
生産本部長補佐 課長
倉内 敏章 氏(右)
国内初のナッツメーカーとして60年以上の歴史を持つ東洋ナッツ食品。輸入した原料の選別から加工、包装、出荷まで一連の業務を担う本社工場では、この10年ほどの間にさまざまなデジタル改革が行われてきた。それらを主導する石原氏と倉内氏に、改革の経緯や具体的な施策、現場に浸透させる秘訣について伺った。
アナログ環境からの転換
東洋ナッツ食品ではアーモンドやクルミ、ピスタチオ、マカダミアナッツなど、さまざまな種類のナッツ類やフルーツを加工している。輸入された原料は、まず厳しい品質チェックを受け、焙煎や味付けなどの加工を経て計量、袋詰め、ラベリング、箱詰めなどの複雑な工程を経て出荷に至る。その工程をすべて担っている本社工場が設立されたのは約40年前。当時の設計思想のままマンパワーに大きく依存した生産方式が長く続いてきた。
そのため設備ごとの稼働状況は現場に行かないと把握できず、トラブルの兆候の早期発見を妨げていた。日々の作業は紙帳票に記録しており、現場での判断もデータではなくベテランの経験と勘に頼る部分が多かった。そこに原材料価格や人件費の高騰が加わり、従来のやり方では利益確保が難しくなっていたという。
転機が訪れたのは約8年前。半導体メーカーに長年勤め、生産設備に関する豊富な知見を持つ石原氏が入社する。「半導体は人が介在するにつれて不良品率が上がってしまう製品なので、早くから省人化が進んでいた業界です。その視点で見ると、食品の製造現場にはデジタル化による改善の余地がたくさんありました」と振り返る。
一方で、食品ならではの難しさもあったという。「半導体は材料がすべて規格どおりの形状なので、機械化しやすい側面があります。しかしナッツは植物のため一粒一粒の大きさや形が異なる上、水分量など見た目では判別できない要素もあります。従って同じ量を生産する場合でもロットによって作業時間や確認作業の手間が異なり、工業製品とは異なる考え方が必要になります。当時、計量や包装など個々の作業は機械化が進んでいましたが、結局は各工程に人が張り付いて監視する必要がありました。まずはそれらをネットワーク化して生産データを一元管理し、生産効率を改善しようと考えました」と当時の状況を語った。
DXの最大の障壁は「人の心」
DXを進めるにあたり、石原氏は現場の実態把握と課題の整理に着手する。各ラインを回り「どの作業が負担になっているか」「どこで情報が途切れているか」「どの工程の無駄が大きいか」などをヒアリング。「現場が使える仕組みを作る」という意識の下、導入計画に落とし込んでいった。また、製造部門のリーダー社員、品質管理担当、DX推進担当を中心としたプロジェクトチームを組成し、現場の視点と石原氏の持つ技術的知見を融合させながら改革を進めていった。
その中で、最大の壁となったのは「人の心」だ。その真意を倉内氏は次のように説く。「もっとも難しかったのはDXの意義を現場に腹落ちさせること。長年の経験で仕事をしてきた人の中には『今のやり方で十分うまく回っている』という意識が根強く、DXで手順を変えることに不安や抵抗感がありました」
この壁をどのように乗り越えたのか。2022年に同社は紙帳票の電子化に着手。神戸市の中小企業DX推進支援補助制度を活用し、電子帳票ツールを導入して作業日報などをタブレット入力へ切り替えていったが、その手法が秀逸だった。「最初に、あえて現場で一番デジタルが苦手なオペレーターに電子帳票を触ってもらいました。結果的にその人が電子帳票の利便性を広めてくれて、周囲も『あの人が使えるなら安心だ』と自然に浸透していきました」
帳票の電子化により、日時や作業者、商品規格などがワンタッチで入力でき、手書きによる誤認や転記ミスも解消された。また、パッケージに印字された賞味期限はタブレットで撮影したものが帳票に貼り付く仕様になっており、製造日に対して正しい賞味期限が印字されているかを確実にチェックできる。まだ一部、紙の帳票が残っているラインもあるので、最終的には全工程の電子帳票化をめざしている。
生産設備のネットワーク化で一元管理が可能に
帳票の電子化が進む一方で、各生産設備のネットワーク化も進んでいた。先述の通り、個々の作業は最新の設備による自動化が進んでいたため、それらのデータを一元管理するデータ分析ツールを新たに導入。特定の商品の計量データをグラフ化して誤差の範囲を確認したり、設備の稼働率を可視化したりと、さまざまな分析が可能になった。
「これまで難しかった日々の生産効率の分析が可能になり、データで明確に評価できるようになりました。また、包装の工程で万が一『かみこみ※』が発生した場合に、その時のログデータを確認して原因を特定するなど、エラーへの迅速な対応も可能になりました」と石原氏は意義を強調した。
※かみこみ
包装工程で内容物がシール部分に挟まる不良状態のこと
DXの目的は人と機械が正しく連携して生産性を上げること
2024年3月には同社が開発したピスタチオの自動選別機が発明大賞※の発明奨励賞を受賞するなど、テクノロジーを活用した業務改善に果敢に挑み続ける東洋ナッツ食品。コンピュータメーカー出身で技術に理解のある経営トップの後押しもあるが、同社をデジタル改革に駆り立てているのは「人材不足への危機感」だ。
「当社も人材不足には悩まされており、現場の省人化は喫緊の課題です。今は製造工程の管理を中心にDXを進めていますが、今後はAIを活用した生産計画の自動化にも取り組んでいこうと考えています。その先の構想としては、日々の生産活動の業績への影響や収益構造を詳細に分析するなど、経営管理のDXにも取り組みたいと考えています。自分の仕事がどのくらい会社の利益に貢献しているのかが可視化されれば、スタッフのやりがいも高まる上、データを基にした精度の高い経営改善が可能になります」と倉内氏は展望を語ってくれた。
ナッツ製造のパイオニアとして歩んできた東洋ナッツ食品は、職場環境の改善においても先駆的な存在といえる。2024年には若手人材の採用・育成に積極的な企業の証である「ユースエール認定企業」に、2025年には高齢者活躍企業コンテストで優秀賞に輝くなど、デジタル技術で省人化を図りつつも「人」が働きやすい環境づくりを忘れない。その根底には「DXは最新技術を入れることではなく、人と機械が正しく連携して生産性を上げること」という確かな目的意識がある。
(取材日:2025年11月21日)
※発明大賞
日本発明振興協会と日刊工業新聞社が共催し、独創性に富む発明に授与される賞
アドバイス
DXの勘どころは「最初の一歩」と「仲間づくり」がすべてだと思っています。最初から完璧なプランを作るのではなく、小さく試して現場と一緒に改善を繰り返すこと。そしてデジタルが苦手な人材から始めて、改善する過程でどんどん仲間を巻き込むこと。これを続ければ自ずと組織に根付くのではないでしょうか。これから人材不足はさらに深刻化します。今、生産拠点が稼働していても、5年後に同じペースで稼働できるとは限りません。その危機感を持って「人に頼らない生産」のあり方を考える必要があると思います。
神戸市モデル/中小企業DX推進チェックシート
※神戸市モデル/中小企業DX推進チェックシートを基に、東洋ナッツ食品株式会社の取組を整理いたしました。実際の取組内容をヒントに、DX推進ポイントを踏まえながら、自社のDX推進にお役立ていただければ幸いです。
| 東洋ナッツ食品株式会社 | ||
|---|---|---|
| 01 | ビジョン・ ビジネスモデルの策定 |
・人材不足が今後さらに深刻化することを前提に、DXを通じた生産現場の省人化を進め、データに基づく経営改善に継続的に取り組む |
| 02 | ビジョン達成のための 全体戦略の策定 |
・日々の生産活動および製造設備のデータを一元管理し、業務効率や収益構造を可視化する ・人と機械が正しく連携することで生産性向上を図る |
| 03 戦略の 推進 |
①組織の視点 | ・各部門のキーパーソンでプロジェクトチームを組成し、現場の実態に即したDX計画を立てる |
| ②人材育成・確保の視点 | ・現場でもっともデジタルが苦手なメンバーを最初に巻き込み、そのメンバー発信でデジタルの利便性を浸透させる | |
| ③デジタル技術の活用の視点 |
・現場帳票の電子化システムを活用し、作業負担を軽減しつつ記入ミスを削減 ・各生産設備をネットワーク化して一元管理し、生産効率の可視化やエラーの早期発見を可能に ・生産計画へのAIの活用を検討 |
|
| ④サイバーセキュリティの視点 | ・工場内のネットワークを外部から遮断し、社外からのアクセスを防止 | |
| 04 | 成果指標の設定 |
以下の項目についてKPIを設定 ・設備稼働率の向上 ・歩留まりの改善 ・ライン停止時間の削減 ・データ入力作業の工数削減 ・紙帳票の削減率 |
| 05 | 管理体制の構築 | ・経営層と各部門の責任者が連携を図りながらDXを推進 |
| 市内企業への好影響 | ・市内のDXセミナーなどで自社の取り組み事例を発信 | |
【企業プロフィール】
東洋ナッツ食品株式会社
本社所在地:神戸市東灘区深江浜町30
代表者:中島 洋人
創業:1959年
資本金:9060万円
従業員数:230名
事業内容:ナッツ、ドライド・フルーツ、雑穀類の製造販売、原料売買
URL:https://www.toyonut.co.jp/