
2025.1.31
地道な勉強会でデジタル化への機運を高め
業界全体のDXに向けて自走する組織へ
株式会社モリエン
代表取締役 森 一朗氏(左)
イエステーション三木店店長
村田 章大氏(右)
1919年に創業し、主に業務用の塗料や塗装用品の卸販売を手がけてきたモリエン。取引先の多くは建築関係で、デジタル化が難しいとされてきた業界だ。そんな中、同社は2008年頃からデジタル改革に着手し、継続的な取り組みが実って2023年にはDX認定*を取得。その立役者でDX推進室の責任者も務めた村田章大氏に、現在までの道のりと手応えを伺った。
*デジタル技術による社会変革に対して経営者に求められる事項を取りまとめた「デジタルガバナンス・コード」に対応し、DX推進の準備が整っていると認められた企業を国が認定する制度
社長一人から始まったバックオフィス業務のデジタル化
DXに取り組む以前、モリエンは手書きによる伝票作成やFAXでの受発注など、アナログなバックオフィス業務を数多く抱えていた。その処理に時間を取られ、お客様対応に当てる時間を確保できないことが悩みだった。2008年頃、代表に就任した森一朗氏はこの問題にメスを入れる。というのも森氏はもともとIT系のスキルに長けており、アナログな業務環境にかねてから疑問を抱いていたからだ。
まず森氏が実行したのは、伝票や発注書など紙資料のデータ化だ。代表自らがシステムを開発し、小規模ながらも各種伝票類を電子化するためのデータベースを構築。その導入に際して最初は反対する声もあったが、ていねいに現場の声を聞きながら誰もが使いやすいシステムへとブラッシュアップを重ねていった。
また、業務管理に関わる種々の情報が可視化されず、情報共有が進まないことも課題だった。特に在庫管理に関しては、たびたび倉庫へ足を運んでは目視で確認する必要があったという。これらもシステムに組み込むことで業務は大幅に効率化。ヒューマンエラーの減少や事務作業の時間短縮につながった。
ITリテラシー格差の解消に向けて勉強会を開始
バックオフィス業務のデジタル化が進むにつれ、新たな課題が浮き彫りとなった。それは社内のITスキルやリテラシーの格差だ。当時の社内には森氏が開発したシステムの改善やエラー修正に対応できる人材がおらず、トラブルがあれば森氏が1人で対応する必要があった。
2010年、この課題を解消すべく同社は業務の一環としてIT勉強会を開始。社員を複数のチームに分け、基本的なネットワークの知識から社内ソフトの活用法まで、様々な知識やスキルを学んでいった。半期に1度はテストを行い、習得度を確認することで確実な成果へつなげていったという。
数年後にはデジタルを活用して自ら業務改善を実行できる社員が増えるなど、社内のITスキルは着実に向上。2018年頃になると、ローコードツールなどを用いて簡単なシステムの構築まで現場で対応できるようになった。「この頃から代表1人ではなく、マネージャー陣を中心として他の社員も巻き込んだデジタル改革が本格的に始まっていきました」と村田氏は振り返る。
勉強会は現在も行っており、社員が講師役を担うことで責任感やリーダーシップの育成にもつなげている。社員が開発した情報共有アプリに勉強会の写真、感想コメント、テストの点数などをアップすることで、実施状況と学習効果を社員間で共有。成果を人事評価とリンクさせ、賞与にも反映することでITスキル向上を「業務」として現場に浸透させている。その結果、社員が自ら動き、デジタルを活用した業務改善を推進する風土ができあがっていった。
ITチームの新設で改革が加速
2018年、さらなるDX推進に向けて社長直属のITチームを設立し、新たに2名のベトナム人システムエンジニアを迎え入れた。これまで代表が1人で対応していた社内システムの構築や改善を担当するほか、各部署のリーダーと方向性や内容を話し合いながらDXを進めている。
「この組織編制によって、現場の社員が業務改善策を提案し、ITチームが形にするという新しい流れが生まれました。重視したのは現場の声が反映される仕組みを作ることと、テストからフィードバックまでスピーディーに行うこと。これがDX成功のカギだと考えています」と村田氏は語る。
受発注アプリを自社開発し、業界のDXを牽引
社内作業が効率化されたモリエンでは顧客と接する時間が増え、より密に顧客のニーズと向き合えるようになった。その結果、新たな「攻めのDX」として顧客向けの受発注アプリ「Morienペイントアシスト」が誕生する。きっかけは日々取引先と接する営業の「こんなツールがあれば助かる」という声だった。
同社が取り扱う塗料は、何百、何千と種類がある。さらにメーカーや製造年数によって品番が変わるため、その数も膨大だ。当時は営業が口頭で注文を聞くケースも多く、聞き間違いによる受注ミスも散見されていた。アプリ開発にあたってはこれらの課題を営業からヒアリングし、徹底的に営業と顧客の視点に立って検証を繰り返した。こうして2023年にローンチされた「Morienペイントアシスト」は、アプリ上での発注はもちろん、塗装現場ごとの発注履歴や商品カタログも閲覧できる。受発注におけるミスが軽減されたのはもちろん、それまで職人の勘と経験に頼っていた発注量の見極めも、過去のデータから簡単かつ正確に算出できるようになった。
現在、アプリの導入企業は顧客の2割にあたる140社を数える。「アプリはまだまだ発展途上。現場で使用感をヒアリングしてブラッシュアップを継続し、誰もが使いやすいものにすることで導入先を広げていきたいですね」と村田氏。製品のお気に入り登録やおすすめの表示など、ユーザーの希望から生まれた機能も多く、最近ではレビュー機能も追加された。
代表・森氏が1人で始めたDXを全社的な取り組みへと発展させ、社員全員を巻き込んでITスキル向上の努力を続けてきたモリエン。この努力によって業務改善への意識が組織全体に浸透し、さらに現場の声が尊重される環境を築いたことで社員が自発的にサービス改善に向けて動き続ける機運が醸成された。この機運はいずれ業界全体に波及し、業界のDXを牽引するパイオニアとして同社は進化し続けるに違いない。
アドバイス
新しい取り組みを進める際、先行事例を参考にすることは非常に効果的です。
他社の成功事例をベンチマークとして活用し、どのような成果をあげているのかを確認しましょう。そして、得られた知見を基に自社に合ったイメージを作成しトップと共有することで、より明確な方向性が見えてきます。
神戸市モデル/中小企業DX推進チェックシート
※神戸市モデル/中小企業DX推進チェックシートを基に、株式会社モリエンの取組を整理いたしました。実際の取組内容をヒントに、DX推進ポイントを踏まえながら、自社のDX推進にお役立ていただければ幸いです。
株式会社モリエン | ||
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01 | ビジョン・ ビジネスモデルの策定 |
・業務効率化を進め、社員が仕事をしやすい環境をつくる。 ・自社アプリによる付加価値の創造を目指す。 |
02 | ビジョン達成のための 全体戦略の策定 |
・デジタル技術を駆使し、バックオフィス業務の効率化を進める。 ・ITテスト、勉強会を継続して実施することで、IT・AIの活用スキルを磨き、デジタル人材を育成する。 ・塗装店向けWEBアプリ「Morienペイントアシスト」の導入を推進。 |
03 戦略の 推進 |
①組織の視点 | DX推進室として社長直属のITチームを設立。 部門長会議で各部署のリーダーと方向性や内容を話し合いながらDXを進めている。 |
②人材育成・確保の視点 | ITテスト、ITチーム勉強会、AI活用事例発表会を定期的に実施。成果を人事評価にもリンクさせている。 | |
③デジタル技術の活用の視点 | 「守りのDX」 自社で開発したシステムや社員自らローコードツールを用いて開発したシステムを活用し、バックオフィス業務の効率化を進める。 「攻めのDX」 塗装店向けWEBアプリ「Morienペイントアシスト」のユーザビリティの強化や機能追加などの改善を進め、戦略的営業活動で顧客基盤を拡大する。 |
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④サイバーセキュリティの視点 | 経営者主導で組織的かつ継続的に情報セキュリティの改善・向上に取り組んでいる。 | |
04 | 成果指標の設定 | 各部署にKPIを設定し、KGIとの関連性を明示している。また、DX推進プロジェクト達成状況を計る定性的な指標を段階的に設定している。 |
05 | 管理体制の構築 | 実行計画と経営計画資料、無料のレポート作成ツール「Looker Studio」を用いて進捗を見える化し、部門長会議にて経営陣が進捗を管理。 |
市内企業への好影響 | 神戸市街地に本社を持つ企業として地域貢献で周囲との理解を深めると同時に、「Morienペイントアシスト」を用いて業界全体のDXの推進に貢献。 |
【企業プロフィール】
株式会社モリエン
本社所在地:神戸市兵庫区荒田町1-4-5
代表者:森 一朗
創業:1919年2月
資本金:1,000万円
従業員数:49名(2023年4月時点)
事業内容:塗料販売、刷毛、ローラー等塗装用具機器他販売、塗装工事、セミナー
URL:https://www.morien.com/