2024.12.23
小さな成功が
大きな成果につながる。
IoT化に向けて社長の一声から
始まった太陽刷子のDX
太陽刷子株式会社
生産技術部 林 由聖氏(左)
製造部 平井 学氏(中央)
情報システム部 二川 純也氏(右)
OEMで歯ブラシの製造を主に行う「太陽刷子」。その歴史は古く、1世紀を超えている。製品や在庫の管理をはじめ、生産ラインの稼働率など、さまざまな分野でDXを進めている同社だが、取り組みだしたのは2016年と意外と最近の話である。どのようにDXを進めたのか、3人の中心人物、林由聖氏(生産技術部)・平井学氏(製造部)・二川純也氏(情報システム部)に伺った。
セミナーへ参加して、知識を蓄積するとともに横のつながりを強化
2016年度、社長の「工場のIoTを始めるぞ」という鶴の一声から始まった太陽刷子のDX。当初右も左もわからない状態だったマネージャー陣は、まず情報の収集を最優先に行った。
同社は、昔から不足するノウハウや技術に対して、セミナーや講習に積極的に参加し、先人の知恵を取り入れる社風だった。製造や営業など部署は関係なく全員が、IoTやDXに関するセミナーや講演会に参加し、知見を広げるとともに横のつながりを広げていったという。そこで「公益財団法人 新産業創造研究機構(以下「NIRO」という)」に出会い、支援機関からサポートを受けることになった。
「当たり前」から作業の無駄を見つけることが重要
最初の一歩は、各部署の課題を洗い出すことだった。見えてきたのは「紙ベースの製造記録をExcelに転記していたため無駄な作業が多くリアルタイム性がない」、「稼働している設備のところまでいかなければ異常に気づけない」など様々。当時、製造チームをまとめていた林由聖氏は、「IoTを進めるまではそれが課題だと思ったことがなかった。基礎知識を蓄えて有識者と一緒に進めたから見えてきた課題です」と当時を振り返った。
わずか2年でIoT化の効果を実感
課題の中で最初に取り組んだのが、製造ラインの稼働率をリアルタイムで見える化、つまりデジタル化すること。これまで設備稼働率やノルマ達成進捗などについて、日々の記録は紙ベースで行い、月間集計などをする際にExcelに転記していた。そのためヒューマンエラーが発生したり、情報が担当者レベルで止まってしまい、上層部で詳細を把握できないことが問題だったという。
そこでNIROからIoT機器メーカーを紹介してもらい、「まずは包装現場へのIoT導入からやってみよう」と試験的に導入。生産実績とサイクルタイムをデータ化し、それらを工場内のモニターに表示して予実を共有したところ、現場スタッフの意識が変わり、生産性の向上にもつながった。導入1か月後には約10%出来高が向上。導入結果が良かったため2年後には全工程にIoTと分析ソフトを導入し、最終的に工場全体で約10%の生産性向上、そして従業員の残業時間低減による収益力の向上にもつながった。
一つの成功体験が、次の成功へ繋がる
スモールスタートながら成功を経験したことで他の部門にもDX推進の流れが広がったという。2022年度には、神戸市のDX補助金を活用し、生産管理・工程管理・原価管理のシステム構築に着手。それまでは平井学氏、林由聖氏を中心に少人数で対応していた。後にDXを拡大していく方針となり「情報システム部」が誕生。「弊社では明確にプロジェクトチームを作らずに現場のメンバーがセミナーなどに参加して知識をインプットし、それを他のスタッフにも広げていくやり方をとっていました。しかしそれだけではやはり限界を感じ、専門知識を持った人材の採用を代表に提言したんです」と当時の様子を語った。
その結果、システムに関する知識が豊富な二川純也氏を新たに採用。それからは経営計画に沿って各部門と情報システム部が連携し、他にも改善が望まれていた課題の解決に取り組むようになった。
将来に向けて自社の基盤をより強固なものへ
今も守りのDXである社内業務のデジタル化は部署ごとに行われており、会社全体で業務改善や効率化が進んでいる。そしてこれらの知識はkintone(キントーン)で共有。データベース化して全社員が見られる状態にしたことで、業務改善に向けた意見交換がさらに活発に行われている。
また、将来的にAI技術活用を見据えた「攻めのDX(収益基盤の強化)」戦略の策定も進めている。「でもそれに着手するのはまだまだ先。まずは作業の効率化などの自社の基盤をより強固なものにするのが先決ですね」と二川純也氏は今後の展望を語ってくれた。
アドバイス
突然「DX化を!」と言われても、何をすればいいかわからないと思います。そんなときはセミナーや講演会に参加して、先人の知恵を借りましょう。我々はセミナー以外にも、製造業DXで先行する他社様の工場見学をさせてもらい、意見交換をさせてもらうことで、“何をすればいいのか”の道筋を教えてもらいました。最初に知識を蓄積することは、DXを進めていくうえで必ず必要なときが来るので、決して無駄にはなりませんよ。 そして実際に進めるときは、なんでもいいのでスモールスタートがベターです。それもすぐに効果を実感できそうなものを選ぶと、その成功体験が次につながりやすくなります。
神戸市モデル/中小企業DX推進チェックシート
※神戸市モデル/中小企業DX推進チェックシートを基に、太陽刷⼦株式会社の取組を整理いたしました。実際の取組内容をヒントに、DX推進ポイントを踏まえながら、自社のDX推進にお役立ていただければ幸いです。
太陽刷⼦株式会社 | ||
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01 | ビジョン・ ビジネスモデルの策定 |
生産性向上を図り、OEMと自社ブランド拡大で収益基盤の強化を目指す。 |
02 | ビジョン達成のための 全体戦略の策定 |
紙ベースの管理や設備の非効率性をデジタル技術の活用で解決。現場のデータ見える化による生産性の向上とIoTとAIを駆使し、収益基盤の強化を目指す。 |
03 戦略の 推進 |
①組織の視点 | IoT導入時はNIRO、IoT機器ベンダーからの支援を受けながら実施。現在は情報システム部を設置とシステムの内製化を推進。 |
②人材育成・確保の視点 | IT人材を新規採用し情報システム部を設置。現在は各部署リーダーと連携しDXを推進。 | |
③デジタル技術の活用の視点 | まずはIoT推進、基幹システムの刷新等の「守りのDX(業務効率化)」を積極的に進め、将来的にAI技術活用を見据えた「攻めのDX(収益基盤の強化)」戦略を策定中。 「攻めのDX」と「守りのDX」バランスの調和を図る方針。 |
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④サイバーセキュリティの視点 | 情報システム部を中心に、社内全体でシステム更新やセキュリティ対策に取り組み、安全なデジタル環境の整備を進めている。 | |
04 | 成果指標の設定 | 経営計画の一部にIT戦略を掲げたうえで実施可能な範囲でPDCAサイクルを実践。 製造現場のデータをリアルタイムで見える化、生産効率の改善などを通じて効果を実感。 |
05 | 管理体制の構築 | 全社的にDXの重要性を理解し、各部署の取り組みや勉強会で得た知識をkintoneで共有することで、横断的な情報共有と意見交換が活発に行われている。 |
市内企業への好影響 | 神戸市のDX補助金やNIROの支援を受け、モデル企業として他社に知見を共有し地域に貢献。 |
【企業プロフィール】
太陽刷⼦株式会社
本社所在地:神戸市東灘区住吉浜町19-18
代表者:⼩倉輝紀
創業:1923年4月
資本金:1,000万円
従業員数:約100名
事業内容:ブラシ(主として⻭ブラシ)、⻭間ブラシ製造
URL:https://www.taiyo-brush.co.jp/