市内中小企業DX推進事例集

2024.12.23

オンリーワンの技術力で
さらなる競争力を生む
“攻め”と“守り”のDX

人物写真 旭光電機株式会社
代表取締役社長 和田 貴志氏(左)
工場長 宮前 淳氏(右)

誰もが日々利用する「自動ドア」の歴史を、独自のセンサ技術とコントロール技術で切り拓いてきた旭光電機。日本初の自動ドア用コントローラを開発し、現在もビル向けの自動ドア用センサはシェアトップ。東海道・山陽新幹線に使われる自動ドアセンサは100%のシェアを誇る。そんな同社は2020年頃、「守りのDX」と「攻めのDX」に着手。2つのDXを迫られた背景と経緯、そして得られた成果について経営トップの和田貴志氏、工場長の宮前淳氏に話を伺った。
※「守りのDX」:デジタルを活用した業務効率化に関する取り組み
「攻めのDX」:デジタルを活用した自社のサービスを変革することによる付加価値の向上につながる取り組み

浮き彫りになった人員配置の無駄

「守りのDX」の発端となったのは、2015年頃に始まった神戸市によるIoT推進の取り組みだった。市の推奨もあり、同社でも自社工場の稼働状況のデータ化を検討。そこで浮き彫りになった課題が、部材の運搬やラインの監視を巡るスタッフの無駄な動きだった。

当時、工場では材料や部品、完成品などを、各設備の監視を担当するスタッフが運んでいた。そのため、運搬作業が発生するたびにラインが止まっていたという。また、製造業には「チョコ停」が付き物だが、同社においても細かい部品の詰まりなどで少なからずチョコ停が発生する。1つのラインが止まると他のラインの稼働も止まってしまうため、エラーへの対応にはスピードが求められる。そのため、以前は定期的に各ラインを巡回し、機器の作動状況を確認するためのスタッフを配置していたという。※製造業での短時間(数秒から数分)の設備停止のことをいう。軽微なトラブルによるもので、生産効率に影響を与える。

ロボットとセンサの巧みな活用

搬送ロボットの写真

これらの課題に対し、同社は社内外の技術を巧みに組み合わせてDXを進めていく。まず運搬の課題に対しては大手機器メーカーが提供する搬送ロボットを導入。既存の製造ラインに新たなセンサを設置してロボットと連動させ、作業完了時にロボットを自動で呼び出すようプログラムした。工場内の昇降エレベーターにも対応するなど、そのすぐれた活用法はメーカーからも注目事例として紹介されているという。

一方、チョコ停への対応に関しては得意のセンサ技術を活用し、ラインの異常を即座に知らせる積層表示灯を設置。ライン内の機器それぞれにも稼働状況を監視するセンサを組み込み、それらをクラウド上で管理することで異常の原因を手元の端末で確認できるようになった。

現場主導でDXに前向きな流れを生む

守りのDX推進チームの写真

業務効率化を目的とした「守りのDX」の推進メンバーとなったのは工場の現場スタッフだ。動き出した当初は「これまで通り、人が運んだ方が速い」といった反発もあったが、いざその利便性を実感してみると、賛同する声が高まったという。

「最近は『これがないと困る』という声も聞かれ、導入した意味があったことを実感しています。現場の管理者を中心に進めているため、導入に対する意見や改善案が直に届くのも良い流れを生んでいると感じています。他社のDXを参考にすることもあり、今では各スタッフが常にデジタル化へ意識を向けて『何をすれば業務改善ができるのか』を考えています」と現場の管理者は振り返る。

コロナ禍が生んだ新規事業に向けたDX

Microsoft AIラボ展示の写真

同じ頃、同社は「攻めのDX」への対応も迫られていた。その発端は新型コロナだ。主要な顧客である鉄道会社と大手飲料メーカーとの取引に暗雲が立ち込め、自社製品の開発による下請けからの脱却が急務となったのだ。そこで、社長室と技術部が中心となってプロダクトの開発に着手。得意のセンサとコントロール技術を生かし、既存設備に取り付けるだけで稼働状況などをデータ化・クラウド管理できる「Smart Fit PRO」シリーズをはじめ、複数のソリューションツールを商品化した。

また、現在の技術トレンドとして欠かせないAIにも着目。クラウドに接続できない非ネット環境でも処理が可能なエッジAIデバイスを開発した。最新のAIモジュールや5G回線に対応しており、さまざまな活用方法が期待されている。2023年10月、Microsoftが世界で6か所目となるAIラボを神戸に開設。そこに旭光電機の製品も展示されることになった。

※端末側でAI処理が可能なデバイスのこと

「Microsoftのエンジニアチームからのシステム開発支援に合わせて、開発に必要なデバイスとしてエッジデバイスやセンサを提供しています。これからも一緒に手を取り合うことで 導入先の企業に合わせたカスタマイズが可能になり、AI開発支援を新たな事業として育てていくことができます」と和田氏。
これを皮切りに、過去に開発したIoTデバイスとAI技術の融合を加速させ、新たな製品を充実させている。

攻めのDX推進チームの写真

成功の鍵は「自分たちの手で」

「攻め」と「守り」の2つのDXを進める旭光電機は、カーボンニュートラル実現に向けたCO2測定デバイスの開発や、自社工場の完全自動化への挑戦など、まだまだ走り続けている。その機運を生んだのは、一連のDXに取り組む“姿勢”だ。

「私たちが大事にしてきたのは、ベンダーに丸投げせず、ソフトウェアの開発も含めて自分たちの手で進めること。外部に任せていたら、ここまでの機運は生まれなかった。他社を参考にするのも良いけど『そこから何を学び、どのように自社に最適化するか』という視点が大切。それを意識してきたから、現場からいろいろな発想が出てくるんです」と和田氏。 「ハードウェアを入れることがDXではない。それらを工夫して活用し、自分たちが望む環境を作るのがDX。それをやるからこそ、達成感がある」と締めくくった。

社長からのアドバイス

DXは経営側の深い理解が必要です。弊社では私自らが率先してDXを推進しましたが、すべてを確認することはできません。そこで補佐的に動ける人員を確保して、各部署内での問題をケアできるように体制を整えました。プロジェクトリーダーだからといって、すべてをやる必要はありません。DX推進の作業を分配して無理なく進めましょう。

担当者からのアドバイス

どんなところにデジタル化のタネがあるかわかりません。なので、常に業務改善の意識を持って、普段の業務に取り組むことが大切だと感じています。また自分たちだけでは思いつかないことも他社の取り組みを真似することで、改善できることもあります。気になった取り組みがあれば、率先して導入してみることをおすすめします。

神戸市モデル/中小企業DX推進チェックシート

神戸市モデル/中小企業DX推進チェックシートを基に、旭光電機株式会社の取組を整理いたしました。実際の取組内容をヒントに、DX推進ポイントを踏まえながら、自社のDX推進にお役立ていただければ幸いです。

旭光電機株式会社
01 ビジョン・
ビジネスモデルの策定
センサ技術を活用して工場の効率化とIoT製品開発を推進し、DXを両立しながら工場の完全自動化と新市場開拓の実現を目指す。
02 ビジョン達成のための
全体戦略の策定
「守りのDX」で工場効率化、「攻めのDX」でIoT製品やAI事業を拡大。
03
戦略の
推進
①組織の視点 「守りのDX」現場スタッフが業務改善提案を行う体制を整備。
「攻めのDX」社長室と技術部が中心となって新商品を開発。
②人材育成・確保の視点 ・現場スタッフがDX推進に先進的な企業見学等に積極的に参加し、業務改善につなげている。
・現場発のデジタルを用いた業務改善を「DXサークル活動」と名付け、社内表彰の対象にしている。
・社長室にDXリーダーを配置し、外部研修への参加を通じて、スキル向上を図る。
③デジタル技術の活用の視点 「守りのDX」
・生産ラインに稼働状況を監視するセンサを設置。
・クラウド上で管理することで手元の端末で確認できる環境を構築。
・非効率的だった運搬作業を搬送ロボットの導入で改善、現場スタッフの生産性向上を実現。
「攻めのDX」
・センサとコントロール技術を生かし、複数のソリューションツールを商品化。
・世界的な課題である脱炭素に向けて独創のCO2排出量計測センサを開発、国内外に展開予定。
・Microsoftの支援を受けてエッジAIデバイスや、さらにAIとIoT技術を融合させた新製品を開発し地元産業に展開予定。
④サイバーセキュリティの視点 IPA のサイトを参考に、実務者レベル(実践編)での対応をとっている。
具体的には、UTM などの境界防御、EDR,NGAV などのエンドポイントプロテクション等をおこなっている。
04 成果指標の設定 「守りのDX」
・取り組んだDXの効果(削減工数)を算定し、効果が大きいものを表彰。
「攻めのDX」
・開発したDX商品の売上・利益を算定し、貢献したものを表彰。
05 管理体制の構築 各部署内での問題をケアできるようDXリーダーを配置したうえで、社長がリーダーシップを発揮して、DXプロジェクトを推進。
市内企業への好影響 Microsoft AIラボでの製品展示を通じた地域技術力向上。

外観

【企業プロフィール】
旭光電機株式会社
本社所在地:神戸市兵庫区荒田町1-2-4
代表者:和田貴志
創業:1947年6月
資本金:8,500万円
従業員数:204名(2023年4月1日時点)
事業内容:各種センサ / コントローラ及び各種制御装置の開発・設計・製造
URL:https://www.kyokko.co.jp/